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2013.04.02(火)

エロ禁忌


あけてはいけないページをあけてしまった。
10代前半、ある年の夏~冬のことだ。
どうもこうもない。意志を持ってひらこうと、意志を持っていまいと、風が吹いてぐうぜん勝手にあいてしまおうと関係なかった。ページがひらくということは、仲間のグループから外されることを意味した。

仲間内のみならず、全国的に、同年代の男なら誰でも知っている。読んでいる。週刊少年ジャンプは少年時代に光り輝いていた雑誌だ。同級生らの共通言語のようなその雑誌において、当時の仲間内に限り一味違う妙な共通言語が成り立った。

同じ教室にも違う教室にも、遊び仲間が大勢いた。仲間たちの誰かと毎日遊んでいたが、夏ごろ、特に同じ教室の仲間とよくグループでつるむようになった。グループのリーダー格は、"性"に関することがらをひときわ忌み嫌う男だった。

仲間たちを夢中にさせた少年ジャンプ作品は挙げればきりがない。リーダーも同様に夢中で読んでいた。
ただひとつ、電影少女だけがリーダーの意に添わなかった。リーダーは、作品をエロイエロイと非難し自分から遠ざけた。それだけならまだしも、非難は、仲間が電影少女に関する話題を口にすることや、作品を読むことにまで広がっていった。

リーダーの罵倒はすさまじかった。
エロイ、エロイ、ありえない、エロイ、お前はありえない。もうお前とは口をきかない。絶交だ。学校でも言う、全員に広める。お前がエロイと言いふらしてやる。
そうして、翌日から教室の一人一人に、あいつとは喋るなエロいからキモいから最低なやつだから関わるなと、小声で伝えて回る。断ったり怪しむと、なら次はお前を無視するからな、と密やかに脅す。
手口が陰湿きわまりなく、受け入れられない仲間や他の生徒もいただろう。完全に取り合わない生徒もいた。しかし自分が無視される立場になることを怖れ、仕方なく形だけでもと一人加担し、もう一人加担し、仲間も私も加担し、誰にも止めることができなかった。独裁政権さながら、リーダーの悪口を言った者、言ったと噂される者がすべからく同じ被害を受けた。

何ヶ月か経ち、秋が過ぎ冬がきた。
リーダーの電影少女を忌み嫌う態度は変わらなかった。電影少女は、身近に遭遇し得るあらゆるエロの象徴に君臨し続けた。少年ジャンプに連載された数々の作品が、互いに心かよわせ盛り上がる共通言語へと育ったのに対し、電影少女だけは人格否定と独裁と忠誠の共通言語へと変容していた。

リーダーに対してだけでなくリーダー以外の仲間とのあいだでも、しだいに電影少女を避けるようになった。リーダーの強権にはほとほと嫌気がさしたが、打開できずにいた。他の仲間が本音ではどう思っていたのだろうか。確認はできなかった。思いを確認し合うだけのことだが、それは反逆と受け取られ火力を増した非難を浴びる危険とワンセットになっている行為だからだ。
電影少女を完全に禁忌扱いする意識が、仲間うちで浸透してしまったため、夏から状況が大きく変わることもなく、打開のハードルは夏よりも高く感じた。

10代も前半の少年達がたむろする場所は限られている。仲間数人でよく集まる場所は、数少ない自室を持つ同級の部屋になる。しぜんと、そうなる。こすけたスニーカーが転がった玄関の奥にリビングを越えて、6畳の巣窟に辿りつく。同級の自室が日に日に散らかる様を見てきた。
無秩序に散乱する物のなかに週刊少年ジャンプを見つけた。2週くらい前の号だ。手持ち無沙汰を埋めるだけの目的で、ジャンプを手に取りページをめくった。

どの漫画作品も、先に何度か読んでいた。しかし一作品、読んでいない作品がある。
電影少女のページはこれまで意識的にひらいてこなかった。読みたかったのに、読まないでいた。リーダーの強権ぶりに愛想をつかしながらも様子を伺い、少年漫画雑誌の一冊すら読破できずにいた。自分に嫌気がさした。
個人的に商店街の文具店でこっそり立ち読みし、実は内容が面白い漫画だと知っていた。エロイエロイと罵られるだけの漫画ではないと誇る自信を、秋から冬にかけて養った。当時の私にとって電影少女は、やっぱりちょっとエロくて、想像以上に読み応えがあり、他の少年ジャンプ作品と同じように唯一の魅力が溢れる漫画だった。

同級の部屋でたむろし2週前のジャンプをぱらぱらめくっていた私は、思い切って、電影少女のページをひらいた。



====



ああーーー、お前なに見てんだよ。

小柄とはいえ5,6人が集まれば手狭になる6畳の子ども部屋。手を伸ばせば届く距離からふいに大声を浴び、顔をあげた。

リーダーが蔑みのまなざしをこちらへ向けていた。座りながら、わざわざ上体だけをこちらへ向きなおして。
信じられない。まさかお前が。エロイ。なに読んでんだよ。そうまくし立てる抑揚には、怒りや軽蔑、不信がありありと含まれていた。

リーダーの大声があまりに突然のひどい剣幕だったために、部屋にいる他の仲間たちは一斉に遊びの手をとめ、リーダーを見た。そしてリーダーの視線を追い、私を見た。
電影少女を読み始めてわずか数分数秒、せいぜい1,2ページ読んだかどうかの頃。
あぐらをかき雑誌を読む姿勢のままで座る私の手元には、電影少女のページが開かれたままの少年ジャンプ。動かぬ証拠に部屋の空気が一変した。

見ればわかることだが、電影少女を読んでいることを告げた。詰問し、言わせようとしてくるリーダー。
エロイ、エロすぎる。キモイ。ありえない。そんなやつだったなんて。信じられない。エロイ。最低だ。まじでキモい。リーダーは背中を気持ち退かせ、引いた態度で再び罵り始めた。
見ればわかるじゃん。面白いよ。よく見なよこのページのどこがエロいんだよ?私は言い返しながら、ジャンプを開いたままリーダーに突き出した。汚い菌を嫌がるいじめのように、嫌悪する反応をあらわすリーダー。やめろ、見せるなと、やみくもに避ける調子だ。

おいもうやめろよ。
周りで見ていた仲間の誰かが発言した。リーダーと私の一対一ではなかった。周りには仲間がいる。私も仲裁の対象だがリーダーにとっては苦い指摘になるはずだから、仲間の思い切ったもの言いを歓迎した。そして仲間の発言はこう続いた。
リーダーが可哀想だろ。はやく謝って許してもらいなって。
リーダーと私の一対一ではなかった。周りの仲間全員が意志を持たないリーダーのコマに見えた。頭に血がのぼる。
読んだことがあるのかとリーダーに聞いた。声を張った。雰囲気に飲まれまい、気圧されまいと必死だった。
そしてリーダーは言った。読むわけない、読んだことあるわけがない。

こんなくだらない言い争いと、いわれのない非難、パワーゲームがあるだろうかと、子ども心に、がっかりした記憶がある。リーダーにも、つるんでいた仲間にも。
しかし子どもだ。読んだことがないとする相手の弱みにすかさず付け込み泥仕合を演じた。

次の日から、私はグループから孤立した。

当時、たまたま私はリーダーのグループ以外にも学年全体に友達が多く、いわゆる方々に顔がきいたせいもあって、じき無視はなくなった。
とはいえ、友人間において、わずかでもエロ関連の話を持ち出すことに異常なほど敏感で、エロをタブー視する意識はその後も強く残り続けた。

なにかと"性"への関心が芽生える成長期にあって、"性"に対して常に一切の興味がない顔をし続けた。欲が増せば、より強く抑えた。ささやかなエロトークにすら混じれない。道端で雨水にたゆんだエロ本に遭遇しても眉ひとつ動かさない。純情ぶって、純粋ぶって、清潔ぶって、真面目ぶって、健全ぶって、恥じらいすら見せず拒む。エロにオープンな奴を羨みもしたし、憎みもした。

やがて私自身がかつてのリーダーと同じになっていることに、ふと気がついた。高校の入学式を間近に控える春休み、路肩に溶けきらない雪を何度か蹴った。




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Author:うさ枕
性別:♂
うさぎの枕で寝る暮らし。
うつ病とたたかう暮らし。
サラリーマンですが、うつ病と診断され今は離職中です。社会復帰に向かうよう邁進中です。
ですが、進むことあり、戻ることあり。
其の日常が当たり前として通り過ぎるのを避けるべく、ブログを始めました。
どうか、あたたかく、お見守り下さいますよう。

 
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