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2013.02.15(金)

教室のコアラ


二人だけの世界が、ドア窓の四角い枠にすっぽり収まっていた。
私がドアを引いて教室に入るところだった。

二名のクラスメイトは、私と同じ、それぞれ勉強目的で学校に来ていた。大学の試験を控え、冬休みでも自主的に通う生徒は少なくなかった。
席に座りいそいそと勉強を始めた私は、終始落ち着かなかった。
男子生徒と女子生徒。二名のクラスメイトはどちらも教室にある机とイスを広く使い、自由にうちとけて楽しく話していた。熱のこもった世間話が、聞かずとも耳に入り込んでくる。
私は内心、紙やすりを2枚重ねてこするような心地でいた。表向き、参考書に目を通しているそぶりで。目の前の勉強に集中し、二名の会話がまるで聞こえていないふりをして。

華やかな教室内で私の居る一点だけが黒い。私はそこに居るべきではない。顔をあげることができない。同じテンションで彼らと話すことができない。同調してうまくやりすごす為のコンディション作りが、はかどらない。

その場に溶け込む形になれない自分のこと、クラスメイト二名にとってその時間が大切であること、自分の存在がその教室で蛇足になっていること、そうして次第に滞留した時間が続いていること。
壁掛け時計の針は何度見ても同じ位置をしめす。じれるような我慢の一室。
一時間は粘っただろうか。次第に焦りが肺で肥大化し息をするのがきつくなってきた頃、あと30分でその場を去ろうと決めた。時間を切って、自分を保とうとした。ゴールの位置が定まるとそこまではやれる。

私が自宅から1時間かけてこの教室まで来ていることを、クラスメイトは知っている。あまりに早く帰るとよくない。30分は、ぎりぎり許容範囲内の時間設定だった。

その日はたまたまカバンに、お菓子を入れてきていた。登校直前に、学校近くのコンビニで買ったお菓子だ。
お菓子を持っていくなんて、我ながら珍しい日だった。
普段からお菓子を買うことなどなく、間食もなければデザートもない。当時の私には食事をすることじたいが家事の一環ともいえる作業だ。だから自分が食べる目的ではなく、もしクラスメイトが居たら、合間にお菓子でもと、ふるまうつもりだった。

高校生っぽい行為への憧れ。そこから大きく隔たる自分。
日常の風景とちょっと違う学校空間で繰り広げられる男女混合の華やかな出来事に憧れていた。
お菓子を一つ買う。それは当時私に出来た精一杯のきっかけ作り策だ。どのお菓子を選べばよいか悩み、選べず、決まらず、コンビニのお菓子売り棚の前でしばらく茫然と立った。

そうやって買った、たしか「コアラのマーチ」が、カバンの中に入ったままだった。

窓から、よく晴れた空がまぶたへ低く迫る。白くて明るい教室内、自分の周囲のみ凝り固まった空気が、体じゅうを覆いつくしていた。
冷え冷えとした汗がにじむ手の平を何度か繰り返し握っては開く。意を決してゆっくり立ちあがる。自然に見えるように、やや緩慢な動作を心がけた記憶がある。

今日はこのあと用事があるからと伝え、帰り支度を始めた。

クラスメイト二名は驚いた様子だった。
もう少し残って一緒に話でもしないかと誘いも受けたが、すっかり後に引けない気概の私には、その場を去る以外の意見に耳を貸す余地がない。
よかったらと、二人で食べるように促し、コアラのマーチを手渡した。
二人は恐縮し、なおのこと一緒に食べようと言ってきた。私はその誘いも断った。頑なに、帰る、コアラはあげる、の一点張り。
無理矢理にコアラのマーチを残して教室を後にした。
冬靴にふれる雪は軽く、歩く勢いでほろほろと崩れた。

コアラのマーチは、私には必要なかった。二人の歓談にこそふさわしいと、何度考えても同じ結論に至った。
自分には高校生の青春っぽいことがほとほと似合わないのだと、諦めた。

二人は私を誘った。仲間に加わるよう声をかけてくれていた。
しかし私が実行したのは、自分の考えを押し付けることだけだ。
自ら彼らと共に一つの机を囲う輪になる勇気がなかった。
教室で出すことができなかったコアラのマーチを自宅に持って帰り、部屋でその箱を見る勇気がなかった。

コアラのマーチは教室に置いてきた。自分も仲間に入れてくれと言う勇気は、置いてこれなかった。




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Author:うさ枕
性別:♂
うさぎの枕で寝る暮らし。
うつ病とたたかう暮らし。
サラリーマンですが、うつ病と診断され今は離職中です。社会復帰に向かうよう邁進中です。
ですが、進むことあり、戻ることあり。
其の日常が当たり前として通り過ぎるのを避けるべく、ブログを始めました。
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